サルア君、アニメに出る(2期7話)

第7話「その魔術が彼を殺すと」

 サブタイトルは「背約者(上)」第5章から。「血涙」編では原作の章題は不採用だったのに対し、本エピソードはチャイルドマンの過去を描いているためか、満を持しての登場。
 見た人間をぎょっとさせるこのタイトルを採用するなら、視聴者もチャイルドマン自身もイスターシバが彼を殺すつもりだと思ったがそうではなかった、というように演出を……というのは贅沢だろうか。

 ある作品に対する不満点には、作品そのものの不出来さゆえの欠点、テレビアニメゆえの制約、制作にあたってのコンセプトゆえに省かれてしまうもの、あるいはその逆につけ加えられるもの、など様々な種類があり、それらはときに重なるというのがわたしの考えだ。ので、十把一絡げに「スタジオディーン版が不出来だからこういう描写になるのだ」と語っていいのか、迷いながら感想文を書いている。

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 マジクが上方までたどりつけなかったのは、尺の関係上、空中浮遊にそこまで時間を割けなかったからではないだろうか。
 わたしの(無根拠な)見立てでは、スタジオディーン版は原作の擁する種々の情報を整理し、なにを提示するか省略するかの取捨選択に設計段階で失敗している。省略が巧みな作品であったなら、オーフェンとマジクが結局地下道からどうやって上がったのかは「つっこみどころ」にはなっても、雑な作りとは受け止められなかったかもしれない。

 

寝てただけさ

 気のせいか、1期にくらべてお芝居のガラッパチ度が増してません?(LOVE……)
 1期では正体を隠して潜入しているため、声音には道楽者の仮面を被っているニュアンスが感じられた。もともとサルアはおどけた態度をはりつけた言動をとるキャラクターである。しかし1期と2期で「わざとらしさ」はやや趣を異にしているように思われる。思われるんですってば。

 3話にはなかった敷布にべっとり血がついていたり、鎖でぶら下げられたりしていないので、おそらく3話のあとで生爪が剥がされた(のと他にもなんかいろいろされた)痕跡に相違あるまい。
 7話から8話にかけて、生爪がどうのとか「ちゃんとなます切りにされるのかな」と延々ツイートしていたので、はたから見ればさぞ物騒なアカウントであったことだろう。違うんです! 出番の少ない贔屓キャラについてあますところなく描写してほしいという願いなんです!
 壁にもたれてずるずる崩れ落ちるところや、負傷した身体をカメラがPANしていくところを丁寧にキャプチャしているときは「わたしは……いったいなにを……」という心持ちになった。
 原作のこのシーンは、オーフェンはクリーオウとひどい頭痛に気を取られ(頭痛のときって視野が狭まるよね)、サルアに背後を許してしまう。このくだり、そのままアニメに起こすとかなり迂遠なものになろう。ただ、1期6話ではカメラの動きで含みを持たせる表現に「おっ」と思わされたので、サルアが暗がりから姿を現すという素直な見せかたよりもなにかアレンジが欲しかったところ。
 ところで、サルアがああいう行動に出たのは、神官兵を倒していたくだりから察するに、半死半生の体でも脱出の機会をうかがっていたという説がわたしの中では有力である。クリーオウの悲鳴で意識を取り戻し、相手が誰かもわからないまま死角へ回り込んで攻撃態勢を取っていたのでは。

「自分の名前は言わせねえくせに」

 ……ちょっとここの声音のニュアンスをいまだに整理できていない。
 原作においては、「サクセサー・オブ――」と言いかけたサルアに声を荒らげてつかみかかるほどオーフェンは動揺している。クリーオウに(読者にも、という意味合いもあろう)サルアの名前、出会った場所、職業を説明するオーフェンに対し、サルアは皮肉を込めてこの台詞を返す。ただし原作では「俺のこたぁべらべら言ってくれるじゃねえか」と続く。
 自分自身については名前どころか二つ名を呼ばれただけで動揺するのに、他人のことは落ち着いて説明できる点をサルアは皮肉っている。もっともオーフェンがこれほど動揺したのは、ネイムを手にかけた直後、つまり「チャイルドマンが望んでいたものにならない、という線を越えてしまった」ところだったのも大きいだろう。サクセサー・オブ・レザー・エッジとはチャイルドマンの後継者を示すからだ。
 ところで、この二つ名は「レザー・エッジ/鋼(=チャイルドマン)の後継者」なのか、それとも「後継者はレザー・エッジ/鋼(=キリランシェロ)である」ということなのか、どちらなのだろう。
 さておき、アニメではこのやりとりがあっさりしたものになったこともあり、皮肉は皮肉であるんだけれどもなぜか苦笑しているようにも聞こえ、えっ、あの、どうすればいいです?????

「ちょっとくらい派手になったって、上にゃ聞こえねえよ」

 やっぱりガラが悪くなってる気がする……。SUKI……。
 喉をこすったような声がなんといいますか、やさぐれ感というか心身に負ったダメージを想起させると申しましょうか、はい。

 

「そこの坊やがいなかったら、危うくやられるところだったぜ」

 人を坊やと呼ぶ者はみずからもまた坊やと呼ばれるのである。
 重力中和が前述したような描写だったので、マジクの成功体験をここに持ってきたものか。

「おい。俺の質問に答えろよ。最大の戦闘力がなくなったんだ。なんか言えよキリランシェロ」
「呼び名くらい、ぐだぐだこだわってんじゃねえよ」

 アニメのサルアは原作から受ける印象よりもオーフェンへの当たりが雑なところがあり、つまりわたしが見たかったやつです! ありがとうございます!
 特に後者の台詞は、原作では「オーフェンがにらみつけてもぴくりとも動じた様子はなく、笑みすら見せて」いたのが、前段の「不快さを隠しもせず」言った台詞のまま口にしている。そのためマジでオーフェンに対しイラついている雰囲気が出ており、「あっ好きです」ってならざるを得ぬ。
 床にへたりこむオーフェンを問い詰めるサルアの姿勢、ちょっとはすに構えてるのがらしくていい。

「で? 何ができなくなったんだ」

 アッちょっと声音が優しくない??? いや冷静に質問してるのがちょっと前の台詞とのギャップでそう聞こえるだけなのかもしれんが。我こそはサルアの「たま~にひょいと出てくる柔らかい喋り口」にお坊ちゃんを感じ取ってニヤニヤするオタク。
 オーフェンと向かい合って立ってるところ、サルアが「真っ直ぐに立ってみると意外と背丈が」あり、さらには首が太い、胸板が厚い、肩幅もあり、腕もごついということがわかる。えっ、そのうえこの男、お手々もきれいなんですか?(「背約者(下)」挿絵参照)セクシーすぎませんか?????
 そしていつもの3人にサルアが加わると、クリーオウはともかくとしてマジクの方の細さや身体の厚みのなさが際立ちますね。

不本意だが俺の兄貴、ラポワントのところに隠れれば、半日は稼げる」

 半日ももたなかったんだよな……。
 親指で自身を指す仕草、目を閉じた表情とあいまって本当に不本意なんだろうな(フフ……)と思わずほくほく笑んでしまっちったい。お前の見たいものを勝手に見出すのをやめろ。
 描写の取捨選択の結果、兄に対する反抗心が他の要素に比してやや画面に残った印象がある。

「……ま、こんな事態だ。使える武器から使っていこうぜ、相棒」

 「オーフェン」シリーズにおいて、人間関係を表わす重要な単語は幾つかある。「家族」「友人」「師」「後継者」、それから「相棒」。相手を理解しようと志す者、独力では及ばない力を補おうとする者、として捉えられる。のちにサルアは「あいつの真意なんてもんを読もうとするのはもう諦めた」と口にするわけだが……。

 

「お前のお師さんは、魔術の最エリートだ。なら分かるんじゃねえか?」

 「お師さん」……!(反芻)(噛みしめる)(反芻)(以下エンドレス)
 もうこの台詞を聞いた瞬間、脳内が「「「わかる」」」の一色で塗りつぶされてしまった。わたしはもうだめです。いままではだめじゃなかったような言いぐさはやめろ。

「ほれ。言わなくたって、考えりゃ分かるもんだろ」

 口笛……!(反芻)(以下同文)
 ところで、このあとアニメでは端折られた会話について、長年どう読めばいいのかつかみそこねていた。
 天人の遺跡を破壊した存在とはなんなのかとオーフェンは質問し、サルアはそれに答えず「お前さんら、俺らを心底なめてるんじゃねえのか?」と返す。少し前のやりとりは、魔術士としての常識ゆえに(遺跡探索にも従事する魔術の最エリートゆえに、といってもいいかもしれない)「天人の遺跡である可能性」を考慮に入れられなかったオーフェンの姿を浮かび上がらせていた。
 他人に答えを聞かずとも、気づいたことを並べれば推測の材料になるしそれが正解を導き出すこともある。そういう話をしたあとになおもオーフェンは「疑問」に対し正解を聞こうとしている。
 女神と戦っていた天人が築いた最大最後の砦であり、その地上部分に女神信仰者たちは神殿を建造した。極端な秘密主義とはいえ、キムラック教徒たちが一生をかけてまでなにをやろうとしているのか興味もないから――どうでもいいことだと軽視しているから考えることもしないのか、とおそらくサルアは言っているのだろう。
 ニコニコ動画のコメントから、つまりこう読めばいいのでは、ということに思い至った。
 それを踏まえると、「キエサルヒマの終端」はオーフェン本人も答えはわかりきったうえでなおも余人に尋ねずにはいられなかった問いかけであったのだ。

 

 ところで、「大図解(だいずかい)! これがユグドラシル神殿(しんでん)だ!」と言わんばかりのあれはなんだったんだ。

 監督が子供向け作品でキャリアを重ねてきたらしいので納得はいく。納得はいくがメインターゲットを原作既読者、つまり30代以上の人間を据えているだろう本作でそれを出していいと思っているのか。

 

(初出・2021年3月24日。加筆修正のうえ投稿)